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生涯のたからもの

2022.12.23

category_[価値について]

一か月ほど前、末期がんの患者さんをご自宅で看取っていたのですが、先日奥様がお礼のあいさつに来られました。

同じご自宅でご主人のお母さんも看取っていたのですが、その御縁でそれからずーっとご夫婦で仲良く外来に通院されていました。今年になり急に瘦せたられたため、念のためにと行った検査でがんが見つかりました。

あれよあれよという間に病状が進行し、別のがんも見つかったりして手術も化学療法もできない状態になられました。あまりに早い経過にご家族も右往左往されていましたから、わたしは適宜連絡を入れ、できるだけ不安な気持ちに寄り添うようにしていました。

親しい人たちへのあいさつもしっかり済まされ、きちんと身辺整理もできてご本人の性格通りの立派な旅立ちでした。

さて、奥様が来院された時にまず「お待たせしました」と言われたので、確かに最後の往診から1か月以上経ってはいましたが、わたしは少し不思議なことを言われるなと思いました。そして、本当に気持ちのこもった挨拶をされた後、奥様が立派な菓子箱を差し出されました。お菓子を買ってこられたんだなと思って見ていると、「干し柿を作ったんです」と言われました。

手作りの干し柿を数個ずつ紙でくるんで、菓子箱の中にぎっしり丁寧に詰めて持ってこられていました。

その言葉、態度、そして干し柿の詰め方を見て、わたしは心からのまごころを感じました。

干し柿を作りながら、わたしを待たせてしまっていると気に病んでおられたのでしょう。やっと「お待たせしました」の意味がわかりました。

この干し柿はおそらくどこで食べたどんなものよりもおいしいことでしょう、そして、そのまごころをいただいた時の記憶はずっと失われないはずだとわたしは思いました。

わたしは奥様がご主人がいなくなった寂しさを感じながらも、感謝の思いを込めてまごころを尽くして準備してこられたことに思いを馳せ、胸に熱いものを感じました。

このような体験こそが、生涯のたからものであると思います。