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ゲノム編集医療

2023.05.10

category_[所感]

今朝の新聞に、「ゲノム編集医療」が初めて医療行為として申請された記事が載っていました。

具体的には「鎌形赤血球症」など、病気の原因となる遺伝子の場所が特定されている病気に対して、患者から取り出してきたまだなんの役割も与えられていない細胞、つまり幹細胞のゲノムに対して、特殊な技術を使って、異常な遺伝子配列を取り除き、正しい遺伝子を挿入します。

そうしてできた正しい遺伝子配列を持つゲノムを持った患者の幹細胞を人工的に殖やした後で患者に点滴して戻します。すると患者のからだの細胞のすべてが変わるわけではないのですが、一部に正しい赤血球を作れる細胞群が出現します。そのため、鎌状赤血球しか作れなかった患者の体の中に正常な赤血球がたくさんできるようになるのです。これだけで患者さんの貧血の症状は劇的に改善します。

今回の技術の中で大事なことはある程度成長した個体のからだの一部の細胞だけゲノムを編集するということです。そして基本的には、ゲノム編集の影響は精子など精細胞に影響を及ぼしません。だから、この編集の結果は子孫には影響しません。(しかし可能性はゼロではありません)

このように見てきただけでも、遺伝子を改変する技術がとても身近になり、現実的になっていることがお判りになっていただけたと思います。

このような技術は病気治療のためにもっと進展するだろうと思います。たとえば糖尿病など複数の遺伝子が関与する病気の治療もできるようになるかもしれません。また、このような技術の先には髪の色や瞳の色を変えるといった可能性に行き着くものもあるでしょう。

ではこのような技術は倫理的に問題なのでしょうか?

いいえ、わたしはそうは思いません。なぜなら、このような技術がなくても今までレトロウイルスなどの影響によって、ヒトの遺伝子には多くの改変が行われてきたからです。そのような改変はからだの細胞だけではなく、子孫に遺伝する精細胞にもあったことがゲノム研究からわかっています。ゲノム編集のすごいところは、ウイルス感染のようなランダムな編集ではなく、病気治療のために狙った遺伝子を望む形で変更できるところにあるといっていいでしょう。遅かれ早かれ生まれてくる技術であったと言っていいかもしれません。

もし遺伝子に人の一生の記録が残されているとすれば、先祖代々のすべての記録が残されていることになります。しかし、このように簡単に改変されてしまう遺伝子配列に記録が残されているとすれば簡単に改ざんされてしまうといえます。ですから遺伝子についてその本質を見極めるためには、デオキシリボ核酸(DNA)の配列だけに目を奪われてはいけないとわたしは考えるのです。