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ヨークシャーテリア

2022.07.14

category_[心理学]

自宅で小型犬を飼っています。犬は有無を言わさず激しく手を舐めてきますが、慣れてますので特に気になりません。しかし、最初からそうだったわけではないのです。

この犬はもともと102歳の患者さんが飼っていました。独り暮らしの方でしたが、裕福な方でしたので、家政婦さんたちが交代で世話をしながら、自宅で最期を迎えることができました。この方がとても寂しがり屋だったのです。昼も夜も一緒にいてくれる小型犬はとても安心感を与えてくれていたでしょう。しかし、患者さんの方が長生きしてしまいました。これだけ高齢の方ですので、理性で寂しさをまぎらわすことはできません。ご家族は死んだ小型犬と同じ犬種で見た目がそっくりな子犬を購入して同じ名前をつけて患者さんに犬が死んでしまったことがよくわからないようにしました。この子犬が4歳になった時、この患者さんが最後を迎えたのです。

さて困ったのはこの犬を誰が引き取るかという問題です。わたしはたまたま、この方の看取りが終わったタイミングで、同じマンションに住むこの方の娘さん(102歳の方の娘さんなので高齢です)に訪問診療することになりました。娘さんの診療をしている時に「田中先生に一番なついていたので、田中先生いかがですか?」と質問され、応じることにしました。

この犬が初めて自宅に来た時のことです。

わたしは生涯を通じて、犬を飼ったことがあまりありませんでした。ですから、最初にこの犬のお出迎えがあった時に激しくなめられて、その感覚を正直気持ち悪く感じました。臭いや毛の手触りもそうです。要するに初めての感覚に少し嫌悪感を持ちそうになったのです。

でもすぐに慣れました。

人間のこころは理性だけでできているわけではありません。感情がとても大きく行動に影響しますが、ほとんどの方はそのことに気づかず、簡単に考えてしまいがちなので、今回の話題にしてみます。

感情は成長段階の早い時期に感覚のパターンが形成されてしまうものです。ですから、初めての感覚を気持ちよく感じたり、逆に気持ち悪く感じたりするのは、幼少期の似た体験とその時に感じた感情に強く影響されるのです。わたしは幼少期に野良犬から怖い目にあったことがあり、その体験が何か影響していたのかもしれません。そのまま感情に振り回されて何らかの行動をとってしまっていたら、犬に対する嫌悪感を持ってしまっていたかもしれません。もちろんその感情は犬にも伝わりますから、犬も怖い思いをしたかもしれません。

しかし、わたしは一瞬感じた嫌悪感を飲み込むことができました。

感情の働きは、本当にこわいものです。理屈ではないのですから、一瞬で勝負がつきます。しっかり理解してコントロールする訓練をしておかなければ大変な目に遭うことになるのです。

嫌悪感は知らず知らずのうちに差別意識につながります。初めて見る外見にびっくりすることはあるでしょう。しかし、そこで幼少期の体験と重ねて反応してしまってはいけないのです。

ぐっとこらえて、しっかり自分のこころに落とし込まなければなりません。