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進化と発生

2023.04.19

category_[自然]

「胎児の世界」(三木成夫 中公新書)という本をご紹介いただき、読んでみました。

とても内容の深い本ですので、今後何度も引用すると思いますが、少しだけ印象的な部分をご紹介いたします。

著者は有名な解剖学者です。研究の過程で、鶏卵の発生過程におけるからだの構造の変化をくわしく調べるために、鶏卵の発生後の経過時間を追って、1日目、2日目・・・孵化までのホルマリン標本を作製されました。

ホルマリン標本はそのままでは血管も他の器官もすべて同じ色なので、区別が難しいわけですが、鶏卵の中の胎児は顕微鏡で観察しなければならないほど小さいので、さらに観察が難しくなります。そこで、血管に色をつけることにしました。具体的には胎児の心臓に墨汁を注射するのですが、あっという間に墨汁は血行に従ってすべての血管に行きわたり、細かい血管まですべての血管に黒い色をつけてくれるわけです。

このような標本作りをしている時に、著者は鶏卵業者から卵は4日目に必ず弱るという話を聞きます。実際に3日目までは順調に、比較的簡単にできた標本づくりが、4日目になり、急に難しくなってなかなかできなくなり、また5日目以降は元通りに簡単になったと言います。

著者が明らかにしたところによると、この4日目に胎児のからだの中で大幅な血管の付け替え、臓器の移動が行われていました。

著者曰く、すべての動物の胎児は受精卵から始まる発生の過程の中で、それまでの進化の過程をすべて追体験します。単細胞生物から魚類、両生類、爬虫類を経て、自分の種のすがたに至るまでの何十億年という進化の過程をすべて経ていくのですが、21日にわたる鶏卵の発生においては4日目にあたるからだの変化がちょうど、水生生物であったわたしたちの先祖が、鰓呼吸をやめて肺呼吸に変わり、陸上に上陸する時期にあたるのだそうです。それほど大変なからだの構造の変化がこの時期に必要であったということが、この鶏卵の発生過程をみても分かるようになっているのだということでした。

もちろん細かい部分はだいぶ端折って説明していますので、正確な引用ではありませんが、この本の雰囲気だけでも感じていただければと思います。