ブログ

Blog

悲しみの感情

2024.02.08

category_[心理学]

先日講演を頼まれ、EQについての話をしてきました。

その時、悲しみなどの悪い感情を感じないようにする、楽しい感情だけで生きるにはどうしたらいいかという質問が出ましたので、「不必要な感情などはない、悲しみにフタをしないことが重要だ」と答えたのですが、その後自分の中でその質問を反芻していました。

悲しみの感情はなぜ存在するんだろう、これは何か役に立つのだろうか?

こころのどこかにそんな疑問がひっかかっていたのですが、今朝一つ答えを思いつきました。

昔精神科の講義を受けている時に小児性愛者の手記を読んだことがあります。そこには性犯罪を犯す人の思考パターンが書かれていたのですが、彼は被害者の子どもが嫌がるそぶりを見せても、それは嫌がっているわけではなく、自分のしている行為を通して相手は実際は喜んでいるのだと自分の欲望を正当化するのに都合のいい解釈をしながら行動していたことが記されていました。

このことを思い出したときに、彼が相手の感情を想像することができていない、相手の悲しみの感情に寄り添えていないことに気づきました。彼は今まで自分が悲しみの体験をした時に、その感情とまっすぐ向き合ってこなかったのではないか、そう思ったのです。

世の中で生きていくと天災を始めとして、事故は常に起こりえます。どんな人でもそのような悲しい事故に遭遇する可能性があるわけですから、そのような時に本人や家族はどうしても悲しい思いをしてしまいます。悲しみの体験は避けようがないものです。しかし、このようなとき、自分の悲しみの感情にフタをして見ないようにしてしまうと、悲しんでいる人を見た時にその感情を想像して共有することができないのかもしれない、そう思ったのです。

ギャンブル依存などの依存症では、ギャンブルに失敗した時の悲しい感情をしっかり受け止めていれば、二度とそんな思いをするまいと強い意思を持つことができます。ストーカーやDVにしても、相手のつらさや悲しさを少しでも想像できれば、自分だけに都合のいい解釈ができなくなるのではと思うのです。

悲しみの感情はつらい体験の記憶を伴うものですから、精神が耐えられないような無理な回想をする必要はありません。徐々にでいいのです。

でも悲しみを感じること自体は悪いことではなくわたしのこころの中の栄養分となり、他人に対する優しさの芽を育ててくれる大事な感情なのだと感じました。